ト ラ ン セ ン ド ・ ブ ル ー × ナ イ ト ラ ン ド
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帝都アクシルを包み込むようにして澄み渡る青空のキャンバスには、定期的に打ち上げられて破裂した昼花火が白色の帯を景気良く垂らしている。 帝都誕生と繁栄を祝い願う祭典は、大いに盛り上がりを見せているに違いない。 なんと言っても本日の祝典には、アークシール超帝国騎士団においての最高位である〈 シュヴァルツ 〉の全員が、民衆の前に姿を現す予定となっているのだ。 全身に漆黒の甲胄を纏うシュヴァルツとは〈 普段は滅多にお目に掛かる事の出来ない軍事の頂点である五超黒を一目見るために、帝都にはナイトランド中からさぞや人が集まる事であろう。 帝都アクシルの中心部に一際巨大に構える3つの荘厳な建築物が、ジーニア達3人の視界に飛び込むようにそびえ立っている。 もうしばらくも歩けば、防壁の無い都としても知られる帝都の敷地内に入る所まで来ていた。 実は騎士隊付で任務に特異性がある事や、ナイトランドへ来てまだ1年も経っていないサッチャンにとって、遠慮なく接する事が出来る人物というのが、皮肉な事にいつも巻かれてしまうジーニアぐらいなものであった。 帝都に着くまでに少しでも知識を増やしておきたいと思っているサッチャンは、こうしてゆっくりと話すのも久しぶりなジーニアやクエルノへ次々と質問をぶつけていっていた。 「囀啼ノ剣は玉鋼金剛が材料となっているという話でしたが、刻印ノ剣はどのような材料から出来ているのでしょうか?」 「刻印ノ剣も囀啼ノ剣のように特殊玉鋼から作られてるんだけど、 玉鋼〈 「なるほど。刻印ノ剣って、それだけ特別な刀剣なんですね」 軽快に頷くサッチャンとは対照的に、ジーニアは含みを持って「確かに、特別なのかもしれないな・・・」と呟くと、刻印ノ剣についてサッチャンに一つ注意を促すのである。 「道術の媒介としても扱われる刻印ノ剣なんだけど、道術師で無い者が扱うと精気を奪われてしまう事もあるからな」 「・・・っえ!?」 サッチャンはジーニアの言葉の意味を理解出来ずに、一瞬唖然としながらも聞き返すような声を上げた。 その声にジーニアは再び「下手をすると命を落とす事があるから、サッチャンも気を付けてくれよ」と、念を押すのである。 「・・・・・」サッチャンは歩みを止め数秒の間、無言で固まってしまった。 そして、すぐに全身が驚きで満ちて行くのである。 「いえぇーー!! それじゃあ、まるで魔剣や妖刀の類いじゃないですか!?」 派手に驚いて見せるサッチャンに、これまた派手な笑い声で応えたのはもちろんクエルノである。 「ブッぷぷぷっ! 魔剣や妖刀なんて可愛いもんだぞ。バネッサちゃんぐらいの道術師がその類いの刀剣を手にすれば、強大な道術の力に刀剣が耐えられずに、あっと言う間に粉々になっちゃうんだからなっ!」 「・・・っうそ!?」 「本当の話だぞ。アークシールの印道術師は本物の化け物ばかりだ。それにナイトランドのあちこちで聖剣の伝説なんかもあるけど、聖剣も同じように粉々になっちゃうんだぞ!」 クエルノが嘘を付かない事を分かっているサッチャンは、ただただその事実を飲み込むしかなかった。 「やっぱり刻印ノ剣って凄い刀剣なんですね。と言うよりもバネッサ副隊長こそが、よっぽど凄くて恐ろしい方なんですね」 サッチャンは自分に言い聞かせるように呟き冷静さを取り戻すと、蒼天の騎士隊の副隊長でありアークシール超帝国の皇女でもある自らの直属の上官が、改めてとてつもない実力者である事を再認識させられるのであった。 驚きから覚めたサッチャンを横目にしていたジーニアは、そうだ! とばかりに思いつくとクエルノをチラリと見た。 「確かクエルノの商会でも玉鋼白道を扱っていて、妖精霊王国に大量に卸してただろ?」 「・・・っえ!? 何だ? 卸してるぞ」 次の商談の事でも考えていたのだろうか、ジーニアに話を振られたクエルノの反応に一瞬の間が生まれた。 クエルノが営んでいる〈 オテント商会 〉は、非常に優秀な部下の尽力もあって飛躍的に業績を伸ばしており、今ではナイトランドでも指折りの忙しさを誇っている程の大商会なのである。 そんな順風満帆で商い道を突っ走るクエルノが、いつものように意気揚々と大きな口を開けてジーニアの言葉に答える。 「この間も精霊王のエレメイストちゃんに白道を届けて来たばかりだからな。玉鋼白道はとんでもなく重い天然鉱物だから、それはもう運ぶのが大変だったんだぞ、こんにょヤロー。ジーニアちゃんも一緒に運んだ事があるんだから知ってるだろ」 真面目で実直に仕事をこなしているというクエルノに、意外にもサッチャンは感心を示している様子であり、そんなクエルノの仕事を知り自身も手伝った事があるジーニアは「ほんと玉鋼白道の重さは尋常じゃないんだよなぁ・・・」と同情の溜息を漏らすのであった。 これは玉鋼白道に限った話でもなく、特殊玉鋼はどのような種類でも規格外に重く硬い事でも知られており扱いが大変なのだ。 一般的な刀剣のサイズで、数振り分に使用される量の運搬となると、馬の数倍の馬力を持つ馬機と呼ばれる機巧種が数十頭は必要となる程であり、多くの業者では怪力持ちである巨人種や亜人種などの剛力による人力で運搬するのが一般的である。 このように扱いに難儀する特殊玉鋼だが、その中でも道術の媒体として最も適している玉鋼白道は、ただ重いだけの鉱物ではないのだとジーニアが主張する。 「運搬には大変な玉鋼白道だけど、ため息が出るぐらいに美しい純白に輝く鉱物としても有名なんだ。加工するには厄介な鉱物なんだろうけど、魔除けの工芸品や装飾品なんかにも加工されていて、人気があって良く売れているらしいよ」 「へぇー、そんなに美しい鉱物なんですね。それは私も一度見てみたいです」 サッチャンも年頃の女の子と同様に、見ているだけで幸せな気分に浸れるアクセサリーなどの類いは興味を惹かれるのだ。 今のサッチャンの瞳は、きっと玉鋼白道にも負けない程の輝きに満ちているに違いない。 簡単な道術や力の弱い道術を装飾品に施し、それを身に付ける事により加護に授かろうという行為は、ナイトランドでは何も珍しくも無い日常的な事である。 もちろん、単純にファッションが目的な場合も当然のように多くあった。 これまでのサッチャンの質問の数々から察してみても、サッチャンの関心が道術師にある事は一目瞭然であった。 いつの時代どんな世界においても、特別な存在に憧れを抱く事というのは自然な事である。 「どうやらサッチャンは道術師や、それらが持つ刻印ノ剣に強い興味があるんだな」 「そうですねぇ、バネッサ副隊長が道術師だからというのがあるのかもしれません。それに先日の闘技場での出来事の影響もあると思います」 ジーニアの指摘に答えるサッチャンにとって、バネッサこそが憧れの存在なのであろう。 「なるほどね。でもバネッサは道術師としても扱う刻印ノ剣にしても、他とは比べられない程に格別だからな」 「お二人のお話を聞いていると、まさにそうみたいですね。それにアークシール家の印道術師ですものね」 そう言いながらもサッチャンは、ジーニアとクエルノの話を改めて一人思い返すのであった。 ところで、道術師や刻印ノ剣の話題で盛り上がるサッチャンではあるが、実際にナイトランドで人々の関心を集めるのは、決まっていつも囀啼ノ剣の方なのだとジーニアは言う。 「実は刀剣自体に関して言えば、刻印ノ剣よりも囀啼ノ剣の方が材質の種類も刀剣のグレードも多岐に渡って複雑なんだ。ナイトランドには、そう言った事に興味を惹かれる連中が溢れているしな」 「・・・!? そうなんですか?」 道術師の存在のように刻印ノ剣にもご執心だったサッチャンにしてみれば意外な事実ではあったが、クエルノの言葉で妙に納得させられてしまう。 「ブッぷぷぷっ! 世の中には、ソウオドちゃんのような感覚に近い奴がたくさんいるって事だな」 「っあ!? マニアやオタクってやつですね」 ナイトランドは数多の騎士が集う国であり、騎士ばかりで無く兵も集まる戦士の楽園でもある。 そのような者達が自らが扱う武器や武具に拘りを持つ事は至極の当然と言えば当然であり、サッチャンが言うような収集を目的とした者も多くいるのである。 そのように、サッチャンが未だ持たない知識であり、騎士だけで無く収集家までも魅了する囀啼ノ剣について、ジーニアとクエルノが揚々と話し出すのであった。 |
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