ト ラ ン セ ン ド ・ ブ ル ー × ナ イ ト ラ ン ド
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剣一達3人は、もうかれこれ1時間以上は座り込んで、ダラダラと他愛もない話で時間を潰していた。 無駄に時間を使えるのは若者の特権だと、毎日のようにあくせくと働く大人達に嫌味でも言われそうだ。 「でさぁでさぁ!その後、どうなったと思う?」 ニヤニヤしながら谷口が話を焦らしていた。 「勿体振ってないで早く言えよ!」 焦らされるのが好きではない橋本は話の先を急かす。 「ちょっとは結末を予想してみてよぉ!」 「嫌だよ、どうせまたくだらないオチなんだろ?」 剣一はニヤニヤしながら、まだまだ練習が必要だと思える2人の漫才のような会話を聞きながら、本気でお笑いを勧めてやろうかと考えていた。 「今日のは面白いから、ちょっとは考えて・・・」唐突に話を打ち切る谷口。 その顔から血の気が引いて行くのが分かった。 「ぉ、おい!? 2人とも! あれ見ろよ!」 谷口は尋常ではない声で叫ぶと、突然立ち上がり剣一と橋本の後方の空を指で示す。 意外にも最初にこの大気の異変に気付いたのは、3人の中で一番鈍感な谷口だった。 剣一と橋本はその場に立ち上がり、振り返って谷口の指差す方を観た。 「っえ・・・!?」 唖然とし言葉を失う剣一は、余りにも薄気味悪い光景に対して、不吉を感じる寒気と共に鳥肌が立つのを覚えた。 「な、何だあれ・・・!?」 橋本も剣一と同じく言葉を失う。 街の上空の大気は、まるでノイズが掛かったかのように電気を帯びチリチリと異常なまでに揺らいでいる。 流れる雲は交通量の多い交差点で行き交う車両を早送りにしたかのような見た事もない速さで流れていた。 3人がいる学校の屋上から観て、街の半分がその光景に覆われているのがよく分かった。 幾ら地球は温暖化で異常気象が多発してるとは言っても、その光景は天変地異にも程がある有り様だった。 3人はポカンと口を開けたまま、その不気味で禍々しい光景をただ注視する事しかできないでいた。 そんな3人の足元を突然、大きな揺れが襲い3人はバランスを崩してしまう。 剣一は危うく転倒はしなかったものの、橋本と谷口はその場で見事に尻餅を突いてしまった。 「いってぇー! なんだよ地震か?」 転倒した谷口は痛みに顔をしかめた。 「この地震、かなり大きくないか!」 いつも冷静な橋本も流石に動揺を隠せないのか少し声が上擦っている。 今起きた地震により、学校中の建物のあちらこちらで、ガラスが派手に割れる音や物が落ちたり倒れたりする音が、3人の居る屋上にまで響いてきた。 ガラスの割れる音に混じり、女子生徒の甲高い悲鳴や声変わりしたばかりの男子生徒の太い叫び声も聞こえてくる。 それらの声のどれもが、只ならぬ事態が起きいる事を物語っていた。 地震による強烈な揺れは、一分程は継続した。 まだ余震はあるもののだいぶ落ち着いて来たようだった。 剣一はこの状況を地面からの震動ではなく、大気が激しく振動しているのではないかと感じていた。 「凄かったなぁ」と、橋本がズボンに付いた埃を払いながら立ち上がった。 「剣一、あの揺れでよく立っていられたよなぁ」と、顔をしかめながら谷口も立ち上がる。 とりあえず2人に怪我は無いみたいだと、剣一は少しホッとするのであった。 3人が居る屋上から街を一望すると、至る所で煙・砂埃や火の手までが立ち登っているのが見て取れた。 そんな状況を見て、剣一は冷静を装いながら呟く。 「今の激しい揺れで、学校はもちろん街中が大変な事になってると思う」 「俺の家、大丈夫かなぁ・・・」と、ボソりと自宅の心配をする谷口。 「あの街の様子だと、無事じゃ済まないかもな」 流石に橋本も大丈夫だとは答えられなかった。 「大変なのはこれからだよ。怪我人は大勢いるだろうし、この様子だと復興にも相当な時間が掛かる、それに一番の問題は治安の低下・・・」 剣一はこれから起こるであろう事を考えると頭が重くなった。 しかしそんな剣一の思考をリセットさせるかのように、けたたましいサイレンの音が放送で学校中に響き渡る。 『地震発生! 地震発生! 生徒は近くの先生の指示に従い速やかに校庭へ避難して下さい! 繰り返します・・・』 「とにかく、ここに居てもしょうがない。下へ行っ・・・」剣一が屋上から下へ向かおうと2人を促そうとした、その時!? 一滴の巨大な雫が水面を激しく打ち付け出来る波紋のように、上空の大気が大きく歪み揺らいで行く。 そして次の瞬間、何十という数の落雷が同時に大気中を暴れ回るような爆音と、富士山頂に直撃する大型台風さながらの爆風が剣一達3人を容赦なく襲った。 体中の骨がバラバラになってしまうんじゃないかと思える程の爆風と爆音の見えない圧力に、3人は激しく屋上の床に叩き付けられる。 無色透明な兵器の鉄槌に対し、剣一は体に染み付いた受身をとっさに取ったが、谷口と橋本はまともに床に叩き付けられていた。 「おいっ! ふたりとも大丈夫か!?」 『・・・ウッ、・・・ウゥ」 剣一の呼び掛けにも2人は呻く事しか出来ない有様だった。 ふたりを横目にゆっくりと立ち上がる剣一。 その表情には愕然が深い皺として刻まれていた。 3人の憩いの場である屋上から見渡す街の光景は、先程の強い揺れの後よりも、ずっとずっと悲惨なものへと悪魔か何かに入れ替えられた。 「・・・・・」 何の言葉も出て来ない剣一。 世紀末に襲い掛かった厄災により廃墟と化した風景、いや、そんな生易しいものではない光景が、現実として剣一の眼前に広がっていた。 頭を抑えながらヨロヨロと立ち上がる橋本が「な、何なんだよ。これ・・・」と、街を見渡し呟いた。 剣一は先程の爆音のせいで酷い耳鳴りに襲われていたが、動揺し震えた橋本の声は何とか聞き取れた。 谷口は何とか上半身を起こし座り込んでいるが、その表情は絶望で塗り潰されていた。 「お、おい! これ絶対にヤバイよ! 何処かに逃げた方がいいんじゃないか? なぁ!?」 大声を出す谷口は、動揺を通り越し半ばパニック状態で剣一と橋本を促した。 「そうだな。とにかくここから離れよう。またあの爆風が来たら次は屋上から落とされるかもしれない」 そう言うと剣一は、座り込んでいる谷口の腕を掴み立たせようとした。 「 どうやら足を酷く捻挫してるようだった。 「橋本!」剣一は橋本を促した。 「谷口、僕と橋本の肩に掴まれ」 剣一と橋本は、谷口を挟む様にして肩を貸し、松葉杖代わりになって足を捻挫する谷口を支えた。 屋上から校舎の中に入る扉は、かなりきしんでいたが何とか開く事ができた。 3人は寄り添うような形でゆっくりと下へと続く階段を降りて行く。 一撃目の地震には耐え抜いた校舎だったが、次に起きた謎の強烈な爆風によって、天井や壁のあちらこちらには亀裂が走っていた。 今にも崩れて来てしまうのではないかという状態に、3人は気が気でなかった。 慎重に歩を進める3人が階段の踊り場に辿り着いたその時、壁の亀裂の一本が頭上の天井へと向かって伸びて行く。 呆気のない程に、悪い予感は的中するものだ。 天井から壁までが一体となり、剥き出しの欲望のままに抱擁を催促するコンクリートの悪魔は、剣一達3人に向かって崩れて来るのであった。 |
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